現在、戸建ての建築に最も多く使用されている外壁材が「サイディングボード」です。建物の外壁に貼り合わせていくパネル型の外壁材になりますが、パネルとパネルのつなぎ目(板間、目地)には、ゴム状の弾力性のあるシーリング(コーキングとも言います)が施工されています。
シーリングには外壁材の隙間からの水の侵入を防ぐ「防水」の役目や、建物の揺れや寒暖差などによりサイディングボードが膨張・伸縮した際に、サイディングボード同士の衝撃や負荷を和らげる「緩衝」の役割など重要な働きがありますが、シーリングは経年とともに劣化していきます。
そのため、外壁塗装のタイミングに合わせて一緒にシーリングも補修することが多いのですが、「シーリングの上から塗装しても大丈夫か」といったお問い合わせをお施主様双方よりよくお寄せいただきます。
そこで今回はシーリング上に塗装した場合に起こりうる現象とその原因、そして、そもそもシーリング部への塗装の是非についてお話しましょう。
目次
シーリング上の塗膜割れとは
下の画像のようにシーリング上の塗膜が割れてしまっている状態を見たことがないでしょうか?もしかしたら、まさに今ご自宅がそのような状態にある。という方もいらっしゃるかもしれません。
見栄えが悪いばかりか、「施工不良では?」と心配になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
シーリング上の塗膜割れの要因
シーリング上の塗膜割れの原因に関しては、いくつかの要因が複合的に重なることで発生するため、「これが原因です」と現場で的確に特定することはなかなか困難です。
考えられる要因を5つ紹介いたします。
① サイディングボードの伸縮
冒頭でも述べましたが、サイディングボードは温度や湿度の変化により伸縮を繰り返しており、それをシーリングの伸縮性が吸収しています。これを日々繰り返すことにより、シーリング上の塗膜が徐々に割れてしまいます。
② 建物の揺れや動き
地震や風、交通の影響により建物は常に揺れや振動を起こしています。①のようなゆっくりとした挙動に加え、このような瞬発的な動きも塗膜割れの要因となります。
③ 使用する塗料の塗膜硬度
塗料は製品によって塗膜の硬度が異なります。塗膜硬度が高いほど耐候性が高かったり汚れに強かったりする傾向がありますが、シーリング上などの柔らかい部分では硬い塗膜がシーリングに追従できず、結果、より割れやすくなります。
④ シーリング材の乾燥不足
乾燥硬化するまでの日数はシーリングにより異なります。十分に乾燥を確認してから塗装しないと、シーリングの乾燥過程で起こる表面積の変化に塗膜がついていけず、引っ張られることで初期の塗膜割れの要因になります。
⑤ シーリングの施工不良
古いシーリングを撤去する際に、目地底とシーリングを縁切りするボンドブレーカーまで取れてしまうケースがあります。
シーリングは本来左右2面のサイディングに生じる負荷を緩衝しますが、目地底にボンドブレーカーがないまま打設(新しいシーリングを充填)してしまうと3面接着となってしまいます。
シーリングの背中がくっついていると表面の痩せ幅も大きくなってしまい、初期の塗膜割れリスクが高くなるばかりか、シーリングそのものの断裂にも繋がってしまいます。
先ほど紹介した画像のようにシーリング部分が極端に凹んでおり、かつ塗膜の割れ目から大きくシーリングが見えている場合は④や⑤の可能性があります。以上のように、シーリング上の塗膜の割れは、一つまたは複数の要因が重なることによって自然と起きてしまいます。
しかし、シーリング上の塗膜が割れたとしてもシーリング自体が劣化や断裂したりしない限り、防水や外壁材の緩衝などのシーリング本来の機能が損なわれるわけではないため、あくまでも意匠的な問題にとどまります。
ですので、再度補修塗り(タッチアップ)をすれば見た目は補修されますが、①や②が要因の場合には再び割れる可能性が高く、根本的な解決策にはなりません。そこで、多くの塗料メーカーが推奨する工法が次に紹介するシーリングの「後打ち」になります。
シーリングの先打ち後打ちとは
外壁塗装のタイミングで行うシーリング工事には、古いシーリングを撤去したのち、
- 新しいシーリングを充填、乾燥を待ってから外壁材と一緒にシーリングも塗装する「先打ち」
- 外壁の塗装をしたのちに、新しいシーリングを充填する「後打ち」
があります。
後打ちであればシーリングの上に塗装を行わないため、当然塗膜割れが起きる心配はありません。先程、塗料メーカーは後打ちを推奨していると述べた理由はそこにあります。
どちらの工法が正しい、間違っているという訳ではなく、それぞれにメリット・デメリットがあります。デメリットの対処法も合わせて、詳しく紹介していきます。
先打ちのメリット・デメリットと対処法
【先打ちのメリット】
・外壁とシーリングが同色の塗装で覆われるため全体的な仕上がりがきれいに見える
・シーリングが塗膜で保護されるため、シーリング自体の劣化が遅い
【先打ちのデメリット】
・動きのあるシーリング上の塗膜の割れ、剥がれなどが起きる
【先打ちのデメリットの対処法】
・ノンブリードタイプのシーリングでブリードを防ぐ
・割れても目立ちにくいシーリング色を選ぶ
・シーリングの動きに追従しやすくなる弾性塗料の使用
・シーリング用の割れ抑制シーラーで塗膜割れしにくくする
ブリード…シーリング材に含まれる可塑剤がにじみ出し、塗料や汚れと反応して変色する現象
あくまでも塗膜割れのリスクを理解したうえでの対策になりますが、シーリング部の意匠的なトラブルリスクを軽減することができます。
シーリング上で「絶対に」割れない上塗り塗料はない
外壁塗装を行う際のシーリング工事では先打ちする場合が比較的多く、実際にシーリング上の塗膜割れの相談も多いです。ある程度の対処法は上記で挙げた通りですが、メーカーとしてこのシーリング上の塗膜割れについてもう少し掘り下げて説明いたします。シーリングは家が揺れた際に外壁材が割れないよう力を分散する効果があるため、ゴムのように柔らく伸び縮みします。
その上に硬い塗膜を載せると……どうなるでしょう。
シーリングの上にピッタリと付着した塗膜はシーリングの動きについていけず、ひび割れを起こしてしまうことがあります。建築用の上塗り塗料は改修用シーリング材とも相性が良いものが多いのですが、あくまでも本来は屋根基材や外壁基材を保護するための数十ミクロンの薄い膜です。そのため、とても柔らかく動きの多いシーリングに完全に追従する性能は付与できません
弾性系塗料など、乾燥後の塗膜が比較的柔らかいタイプの塗料もありますが、あくまでも通常の上塗り塗料と比較して追従”しやす”く、割れ“にくい”に留まるものになります。そのため、特殊な壁面塗膜防水材などを除いて、「住宅塗装ではシーリング上で「絶対に」割れない塗膜はない」ということをあらかじめ理解しておく必要があります。
後打ちのメリット・デメリットと対処法
【後打ちのメリット】
・シーリング上に塗膜がないため当然塗膜割れの心配がない。
【後打ちのデメリット】
・シーリングが塗膜で保護されず直接紫外線の影響を受けるため先打ちと比べてシーリングの劣化が早い。
・外壁色とシーリング材の色調をピッタリ合わせることが難しいため、シーリングの色によっては完工後に目地部分の色が浮いて見える場合がある。
【後打ちのデメリットの対処法】
塗膜割れを敬遠して後打ちを選択しても、「塗装よりシーリングが先にダメになってしまった…」ということになれば余計な出費に繋がります。後打ちを選ぶ際には高耐候のシーリング材をおすすめします。
現在発売されている高耐候のシーリング材には「オートンイクシード プレマエディション」のように、保護防水機能に長期保証が付く製品もあります。
また、そのような高耐久のシーリング材は塗り替え時の後打ちを前提として多くのカラーバリエーションを揃えていますので、できるだけ外壁色に近い色を選ぶことで先打ちのように全体的な外観をキレイに仕上げることもできます。
上記のようにそれぞれメリットとデメリットがあるため、どちらにすべきか、ご自宅の状況とご希望を担当の施工店へ伝えて相談をしたほうがよいでしょう。
シーリング工事には「増し打ち」もあるが…
既存の痩せきったシーリングの上から新しくシーリング材を盛り足す工法を「増し打ち」と言います。基本的には古いシーリングをしっかりと撤去してから新たに打ち直したほうが良いのですが、ALC外壁やサイディングのサッシ周りなどシーリングの撤去が難しい場合は増し打ちを行います。
増し打ちしても、所定の厚みを付けることができませんので、シーリング機能の増強にはなりません。また、増し打ち部分のめくれなども起こりやすいことから、できる限り打ち替えをおすすめします。
おわりに
シーリングの施工法やシーリング上の塗膜割れについて、塗料メーカーの視点から解説をしてきました。シーリング上の塗膜割れは、認識不足から施工後のトラブルやメーカーへの相談が最も多いものの一つになります。しかし、塗料を製造する立場の建築塗料メーカーとしては、基本的にシーリング上は塗装適用基材に含まれませんし、シーリング用の塗装仕様もありません。
一方のシーリングメーカーに問い合わせても、塗膜割れに関してはシーリング自体の不具合ではないため、はっきりした回答は得られません。後打ち先打ち、塗膜割れの十分な説明や理解がないまま「割れたらタッチアップで直せばいい」という考えは、「シーリング上の塗膜割れは施工や塗料の不具合」という認識を招いてしまい、クレームやいつまでも終わらない補修を繰り返すことになりかねません。
そのため、塗装の本来の役割、シーリングの役割、先打ちや後打ちのメリット・デメリットを事前にご理解いただくことが、のちのトラブルや不安を取り除くことにつながります。家の状況をしっかり判断し、上記の説明をしっかりと果たしてくれる塗装業者を選ぶことをおすすめします。